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SVPの私的まとめ

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 ご存知の方も多いだろうが、先日ダラスで古脊椎動物学会の2015年年会(いわゆるSVP 2015)がおこなわれた。毎年のことながら恐竜がらみの興味深い発表が数多くあり、今後が実に楽しみである。筆者的に気になったものを備忘録を兼ねて適当に書いておきたい。

・ナノティラヌス何度目かの死亡
 いよいよティラノサウルス類の幼体「ジェーン」のモノグラフが出版されるということで、それに絡んだ発表である。モノグラフの執筆/学会発表はT.カーということで、お察しの通りナノティラヌスは消滅した。
 結論はどうあれ(モンタナ闘争化石の記載か、さもなくば「ナノティラヌスの成体」が出ない限り決着をつけるのは無理だろう)、ジェーンの記載が出版されるのは喜ばしいことである。手に入れた暁には骨格図を自分なりに描いてやりたいところではある。

・ティラノサウルス上科の系統解析
 系統解析はなにかと揉めるものである。今回、新たなデータセットに基づくティラノサウルス上科の新たな系統解析の結果が報告された。
 曰く、(従来位置の定まっていなかった)ユティラヌスはプロケラトサウルス科へ移動した。エオティラヌスとシオングアンロンは相変わらず「中間位置」に置かれているという。また、もっぱら「中間位置」とされてきたドリプトサウルスはアリオラムス族に置かれたという(アリオラムス族は今回ティラノサウルス科内に位置付けられた)。なにかと興味深いところであり、きちんとした図を(出版物として)見たいものである。

・「2本指」のテリジノサウルス類
 モンゴルのバヤンシレBayanshiree層(セノマニアン~チューロニアン)といえばエニグモサウルスにエルリコサウルス、そしてセグノサウルスと、多様なテリジノサウルス類が産出している。今回報告されたテリジノサウルス類の化石は下腕から手にかけて関節した状態で保存されており、特にテリジノサウルス類の関節した手の化石はバヤンシレ層からは初めての報告となる。
 今回報告された化石が上述のどれに属するのかは(現時点で公表されているかぎりでは)不明である。が、これには非常に退縮した第Ⅲ中手骨(近位端の幅が第Ⅱ中手骨の1/4しかない。遠位端は失われていた)が含まれていた。これはすなわち、第Ⅲ指(未発見)がほとんど退化(あるいは消失)し、機能指が2本だけになっていた可能性を強く示している。
 驚くべきことに、この化石には第Ⅰ末節骨の「さや」が保存されていた。さやは強くカーブしており、さやを含めた長さは第Ⅰ末節骨そのものの54%増しになっているという。この化石は第Ⅲ中手骨を除けば他のテリジノサウルス類とよく似ているといい、他のテリジノサウルス類でも生時は爪の長さが化石の1.5倍ほどになっていたのだろう。

・サウロルニトレステスの全身骨格
 サウロルニトレステスのまともな骨格と言えば、今まで2体の部分骨格が知られているにすぎなかった。それゆえ系統的な位置付けは安定せず、そのうえ両者とも記載はほとんどおこなわれておらず、完全な記載も待ち望まれていたのだが、それどころではなくなってしまった。
 今回報告された新標本UALVP55700は非常に保存状態がよく、なにかと貴重な胸郭もきれいに保存されていた。頭骨はヴェロキラプトルよりもアトロキラプトルに似ており、予察的な系統解析でもアトロキラプトルそしてバンビラプトルと近縁とされた。
 新標本の顎にはいわゆる「パロニコドン型」の歯も確認されたという。なにかと記載が楽しみである。

・タプイアサウルスとネメグトサウルス科の「崩壊」
 タプイアサウルスといえば非常によく保存された頭骨が有名である(体骨格の記載はよ)。今回、詳細な観察の結果と系統関係の見直しについて報告がおこなわれている。
 曰く、タプイアサウルスはネメグトサウルス科ではなかったらしい。「ネメグトサウルス科」の抱える問題点は今まで指摘されていたが、案の定ということのようだ。新たな系統解析では、タプイアサウルスはマラウィサウルス、タンヴァヨサウルスと近縁とされている。また、ネメグトサウルス―ラペトサウルスクレードも「崩壊」するのだという。この系統解析の結果もぜひきちんとした図で見たい。

・タニウス
 どうも近いうちにタニウスが再記載されるようである。すでに首から後ろの記載は修論としてネットに出回っており、公式な出版物を指折り数えて待っている筆者である。

・グリポサウルス属の種また増える
 ジュディス・リバー層からの報告である。いわく、G.ラティデンスとG.ノタビリスの中間に位置する新種であるという。正直ジュディス・リバーはノーマークであった。

・ペンタケラトプスの幼体
 ペンタケラトプスの幼体のほぼ完全な骨格NMMNH P-68578が報告された。上腕骨の長さが460mm、尺骨が405mm、大腿骨が670mmと、ざっくり成体の半分のサイズということのようだ。ケラトプス科角竜の幼体のよく揃った化石はペンタケラトプスに限らず珍しいものであり、非常に重要である。

・カスモサウルスとかコスモケラトプスとか
 従来カスモサウルス・ベリとされていた頭骨YPM 2016は最近になって新種{?}の可能性が指摘されているのだが、やはりその可能性が濃厚そうである。ヴァガケラトプスとの類似が指摘されている。
 また、ペンタケラトプス・アクイロニウスの記載にかこつけて報告された「カナダ産コスモケラトプス」だが、どうもこれは(元々の同定の通り)カスモサウルスだったようである。

・デンヴァ―サウルスの復活
 デンヴァ―サウルスといえば、エドモントニア属に含まれることがほとんどであった。今回、「パノプロサウルス類」に関する詳細な再検討の成果が報告されている。それによると、デンヴァ―サウルスはエドモントニアよりパノプロサウルスに近縁で、有効属として扱うべきだという。パノプロサウルスとデンヴァ―サウルスの方がエドモントニアより派生的であるともいう。



 独断その他で筆者の気になるトピックを取り上げたが、他にも興味深い話題はたくさんある。アブストラクトはフリーなので、興味ある分類群の名前でも検索窓に適当に打ち込んでやるとよいだろう。


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